骨軟部腫瘍・2013年新WHO分類

九州大学大学院医学研究院形態機能病理学 小田 義直

この度、骨軟部腫瘍のWHO分類が2002年以来、約10年ぶりに改訂となった1)。軟部腫瘍のコンセンサス会議に日本からは小田が参加したが、残念ながら今回骨腫瘍のコンセンサス会議への日本からの参加者はいなかった。編集はZurich大学医学部の講義室を使用して骨腫瘍、軟部腫瘍について分かれて別個に行われた。日本人の原稿のcontributorとして病理医では、久岡正典先生がelastofibromaとangioleiomyomaを、岩佐葉子先生がcellular angiofibromaを、小田がepithelioid sarcomaとextrarenal rhabdoid tumorを、中嶋安彬先生がmesenchymal chondrosarcomaを、山口岳彦先生がbenign notochordal cell tumorとchordomaを分担執筆している。整形外科医では川島寛之先生がossifying fibromyxoid tumorを、西尾淳先生がelastofibromaを、岡田恭司先生がtelangiectatic osteosarcomaを、金森昌彦先生がadamantinomaを分担し執筆している。2002年の分類からの主な変更点を以下に述べる。

Ⅰ 骨腫瘍

2002年の分類では基本的に約60年前からのJaffe and Lichtensteinの分類から大きな違いはなかったが、今回の分類では悪性度に関して2002年の軟部腫瘍分類にならってintermediate(locally aggressive とrarely metastasizing)の概念が導入された。またmalignant fibrous histiocytoma(MFH)が2002年の軟部腫瘍の分類にならってundifferentiated high grade pleomorphic sarcomaの名称になりfibrohistiocytic tumorの大項目からmiscellaneous tumorの大項目へ移動となった。fibrohistiocytic tumorの大項目では従来別々の疾患単位として取り扱われていたfibrous cortical defect / non-ossifying fibroma とbenign fibrous histiocytoma of boneが違う臨床像を呈するのみで本質的には同じ組織像の良性腫瘍ということでnon-ossifying fibroma / benign fibrous histiocytoma of bone という同一疾患にまとめられた。

軟骨肉腫では軟部腫瘍のatypical lipomatous tumor / well differentiated liposarcomaに相対するように、従来は悪性であったgradeⅠchondrosarcomaがatypical cartilaginous tumor / chondrosarcoma gradeⅠとしてintermediate(locally aggressive)の範躊に分類され、gradeⅡ、Ⅲ chondrosarcomaのみが悪性となった。その他intermediate(locally aggressive)のcategoryに分類されたものとしてはchondromyxoid fibroma、 osteoblastoma、desmoplastic fibroma of boneが挙げられる。chondroblastomaは症例報告などでごく稀に遠隔転移例が存在することからintermediate (rarely metastasizing)の範鴫に分類された。

従来の骨巨細胞腫が分類されていたgiant cell tumorという大項目はosteoclastic giant cell rich tumorsという大項目となり、この中に良性として以前のgiant cell reparative granulomaがgiant cell lesion of the small bones という名称で枠づけされた。また骨巨細胞腫giant cell tumor of boneはしばしば局所破壊性が強く、稀に肺転移をきたす例もあることから悪性度に関してはintermediate(locally aggressive、rarely metastasizing)の範瞬に分類された。

2002年の分類でmiscellaneous lesionsの大項目の中には、特異的遺伝子異常(fibrous dysplasiaにおけるGNAS)や染色体転座(aneurysmal bone cystにおけるCDH1I-USP6)を有するものが含まれていることから、腫瘍の性質を有する疾患群とされ、大項目の名称がtumors of undefined neoplastic natureとなった。この大項目に所属するものとして、悪性度に関してsimple bone cyst、fibrous dysplasia、osteofibrous dysplasia、Rosai- Dorfman diseaseが良性に、aneurysmal bone cyst、Langerhans cell histiocvtosis、 Erdheim-Chester diseaseがintermediate (locally aggressive)の範躊に枠づけされた。 2002年の分類でmiscellaneous tumorの大項目に分類されていたものにadamantinomaとmetastatic malignancyがあったが、今回の分類ではadamantinomaにEwing sarcomaおよびundifferentiated high grade pleomorphic sarcoma(従来の骨MFH)が加わった。

新しい疾患概念としては脊索性腫瘍notochordal tumorsの良性カウンターパートとしてbenign notochordal cell tumorが、血管性腫瘍vascular tumorのintermediate(locally aggressive、rarely metastasizing)にepithelioid hemangiomaが加わった。

Ⅱ 軟部腫瘍

まず免疫染色のマーカーで、vimentin、CD99、bcl-2などは特異性が低いとの理由で各組織亜型のマーカーの記載からは外されてしまった。神経腫瘍、皮膚腫瘍およびGISTが加わりボリュームが増している。2002年の分類でfibroblastic / myofibroblastic tumorsの大項目でbenignであったgiant cell angiofibromaはsolitary fibrous tumor のgiant cell typeとなった。solitary fibrous tumorとhemangiopericytomaは同義語とされていたが、hemangiopericytomaの名称は新分類では完全になくなった。以前は皮膚腫瘍のWHO分類に記載され軟部腫瘍では取り扱われていなかったdermatofibrosarcoma protuberansが今回はintermediate(rarely metastasizing)の疾患単位として掲載された。

smooth muscle tumorの大項目にあったangioleiomyomaがpericytic tumorの大項目の範躊に移された。

nerve sheath tumorsの大項目が新たにつくられ、malignant peripheral nerve sheath tumorなどの古典的な腫瘍に加えてhybrid nerve sheath tumorなどの新しい疾患が加えられた。悪性の範鴫の中で非常に稀なmalignant granular cell tumorが通常のgranular cell tumorと別個に取り扱われた。

so-called fibrohistiocytic tumorの大項目の中にbenign deep benign fibrous histiocytoma(benign)が、vascular tumorsの大項目の中には類上皮肉腫に類似した組織像を呈し、epithelioid sarcoma-like hemangioendotheliomaとも呼ばれるpseudopyogenic (epithelioid sarcoma-like)hemangioendotheliomaが新たにintermediate(rarely metastasizing)の腫瘍として加えられた。rhabdomyosarcomaの新しい亜型としてspindle cell / sclerosing rhabdomyosarcomaが加わった。

adipocytic tumorの大項目の中ではliposarcomaのmixed type という亜型はなくなってしまった。

tumors of uncertain differentiationの大項目の中には、新たに皮膚腫瘍であるacral fibromyxomaがbenignに、atypical fibroxanthomaがintermediate(rarely metastasizing)に加えられた。また多彩な病理組織像を呈し腫瘍性低リン血症性骨軟化症をきたすphosphaturic mesenchymal tumor(benign / malignant)も新たにこの大項目に加えられた。岩佐葉子先生が病理と臨床7月号の今月の話題に取り上げたmyxoinflammatory fibroblastic sarcomaとの関連性が指摘されているhemosiderotic fibrolipomatous tumorがintermediate(locally aggressive)として新たにこの大項目の中に取り上げられた。 synovial sarcomaの亜型でmonophasic fibrousと呼ばれていたものがspindle cell という名称になった。

一番のトピックは従来のundifferentiated pleomorphic sarcoma/malignant fibrous histiocytoma (UPS / MFH)の概念が完全に消失してしまったことである。これに代わってundifferentiated / unclassified sarcomas(US)という大項目がつくられ、この中に同じundifferentiated / unclassified sarcomasという名称の疾患概念がつくられているこの概念の中にはundifferentiated round cell sarcoma(図1)、undifferentiated spindle cell sarcoma(図2)、undifferentiated pleomorphic sarcoma(図3)、undifferentiated epithelioid sarcoma(図4)、undifferentiated sarcoma、NOSの5つの亜型があり、UPS / MFHはこの中のundifferentiated pleomorphic sarcomaに相当する。USの定義には、軟部肉腫全体の多くても20%がこの疾患概念に相当すると記載されている。USP / MFHにも当てはまらない狭義のUSの疾患概念はやはり以前から存在し軟部肉腫の病理診断を多く行っている施設での頻度は10~20%程度とされてきた。一方で2000年頃からUPS / MFHの診断基準が厳密化し診断される頻度が少なくなり、その頻度は1位ではなくなったものの脂肪肉腫、平滑筋肉腫と並んでベスト3に入る依然頻度の高い肉瞳である2)。このUPS / MFHを今回のWHO分類の診断基準にあてはめてしまうとUSに含まれる軟部肉腫の頻度が圧倒的に高くなり、実際九州大学病理に1971~2010年までに収集された軟部肉腫2,965例の集計では狭義のUSは約8%であったが、これに約9%で第三位の頻度のUPS / MFHの概念を加えた新しい広義のUSの頻度は17%となり、軟部肉腫の中では最も頻度の高い組織亜型となってしまうという皮肉な結果になってしまう。やはり従来のUPS / MFHは従来の分類のように独立した組織型として残しておいたほうが良いのではないかと筆者は個人的に考えている。

文献

  1. 1) Fletcher, C.D.M., Bridge, J.A., Hogendoorn, P.C.W. et al. (eds.) : WHO Classification of Tumours of Soft Tissue and Bone. IARC Press, Lyon, 2013
  2. 2) 平成22年度全国軟部腫瘍登録一覧表 日本整形外科学会骨軟部腫瘍委員会

2013年31巻 9号「病理と臨床」今月の話題から