International Skeletal Society Annual Meetingに参加して

野島孝之

図1. ISSのロゴマーク

2010年9月、ギリシャのAthensで開催された“International Skeletal Society (ISS)”のannual meetingに3年ぶりに出席した。初めて参加したSan Diego(米国、1991年)以来欠かさず出席していたが、この数年は大学の学事の都合で時間が侭ならなくなっていた。この国際学会は“Skeletal Radiology”を機関雑誌として、放射線科医を中心に、病理医、整形外科医、骨疾患やリウマチ、骨代謝に興味のある研究者をまじえて、1974年にWashington DCで第1回が開催された。その当時の学会の趣旨をみると、1~2日間をかけて難解な症例や希有な症例を画像的に、病理学的に討議し、そのあと非会員を含めて3日間の教育コースを開催すると書かれている1)。

ISSのannual meeting は長い年月とともに多少の変更はあるが、基本的に設立当時からのスタイルを踏襲している。前半の3日間は会員による症例検討会とミニレクチャーで、事前に選択された40~45症例を、検鏡日として1日、発表・検討会に2日である。後半の4日間はrefresher courseで、会員が講師となり、骨軟部領域の解剖学から各疾患のトピックスを、非会員を対象に講演形式の講習会である。会員各自には事前にどのようなトピックスを講演できるかアンケートが届き、プログラム委員会がその年のテーマや全体像を考慮して人選し、日時、発表時間を指定してくる。会員は後輩を指導する立場にあり、義務として無料奉仕で講演するが、最終日に設定されるとほぼ1週間を拘束され、滞在費用も馬鹿にならない。

図2. ISSの鏡検室の様子

前半の症例検討会がメインイベントである。最近はホームページで事前に症例の臨床経過、代表的なHE像を供覧可能となり、検鏡日に時差ぼけ状態で顕微鏡に向かう苦痛から多少は解放されるが、ガラス標本の観察が一番の勉強になる。骨病理の大家であるDr. Dahlinは朝早くから一日中鏡検していたが、この真摯で謙虚な姿にはいつも敬服するのみであった。各自の診断は投票され、検討会では「この症例の放射線科医の診断は骨肉腫○票、血管肉腫△票、・・・。病理は骨肉腫▽票、MFH×票、・・・」と紹介される。

Dr. UnniやDr. Dorfmanらが自ら経験した症例を発表する。たかが症例報告であるが、決して若い人に発表の機会を譲らず、手を抜かず、真剣に報告し、討論する。骨軟部領域の新しい疾患概念や最新の知見を得るには、ISSよりもUSCAPが有益であるが、ISSには病理医、放射線科医、整形外科医らが集い、一症例を大切にする診断学の本質の楽しみがある。annual meetingは毎年8月から10月頃に開催されるが、症例の選択は3月上旬のプログラム委員会で行われる。2001年と2006年にプログラム委員としてこの作業に携わった。最初の年はNew York郊外の集会場(広大な敷地のお城のようなホテル)、2006年はManhattanにあるHospital for Special Surgeryの会議室であった。入会当時のISSは優雅で裕福な学会と認識したが、年々経済的に厳しくなっていくのを実感した。委員会は朝8時から翌日の昼までで、2泊分の宿と昼までの食事、東京・New York間の飛行機代(格安運賃の領収書分)が支給される。委員会は病理と放射線から各5名とchairmanからなるが、委員の多くはNew York在住で、北米以外は2,3名しかいない。100例ほどの症例を1例ずつ討議し、各自10点満点の点数をつけ、上位40~45症例が採択となる。後日chairmanがテーマ毎に症例を並び替え、プログラムは完成する。

図3. ISSの症例発表会の様子

開催地は北米とその他の地区を交互にめぐり、海外旅行の機会の少ない身にとっては楽しみな学会である。特にSanta Fe(1997年)やMalta(2004年)は二度と行く機会がないだろう。しばしば政局(特に米国)に左右され、開催地の急な変更もある(1998年JerusalemがDublinに、2002年IstanbulがGenevaに)。何度か東京や京都が候補地としてノミネートされるが、物価が高いという理由で落選するのは非常に残念である。開催地の魅力にもよるがactiveな参加会員は200~250名で、refresher courseでは500~600名を集める。私が入会した当時の日本人は松野丈夫先生(現旭川医科大学整形外科)、町並陸生先生、牛込新一郎先生だったが、現在は30名を超えている。会員総数は500~600名ほどで、その60%は放射線科医からなり、また、総会員の60%を北米が占めている。日本は病理医が圧倒的に多い。

国内の類似した勉強の場としては、“整形外科学会・骨腫瘍研究会”が1968年札幌で開催され、骨軟部腫瘍7症例が臨床病理的に討議されている2)。その後、毎年7月に“整形外科学会・骨軟部腫瘍学術集会”の症例検討会として引き継がれている。最近は各地区で骨軟部腫瘍の症例検討会が頻繁に開催され、診断の技術や能力の向上が図られている。

私が骨病理を始めたきっかけは、大学院1年目の秋に米国留学から帰国したばかりの松野先生の指導を受けたことにある。既にISSの会員として活躍し、骨腫瘍診断学に興味をもつ人材を育てたいと考えていた松野先生は、1990年から2006年の間に5回、札幌あるいは旭川で“骨病理セミナー”を開催された。Dr. Dahlin、Dr. Schiller、Dr. Unniをはじめ、ISSで知己を得た病理医を、また、国内からは町並先生、牛込先生が特別講師として参加された。3~4日間にわたり午前中はISSのrefresher course形式の講演会、午後は顕微鏡を使用したスライド実習である。現在では種々の臓器で、同様のスタイルの病理講習会がみられるが、20年前、3~4日間を缶詰状態で行う会合は画期的であった。

通称“Bone Tumor Club (BTC)”は牛込先生、町並先生が音頭を取り、今村哲夫先生、恒吉正澄先生らを中心に、1987年に“類骨(osteoid)を考える会” として発足し、その後、骨軟部腫瘍全般を検討する会に発展した3)。いかに正確に診断するかを命題とした好き者たちの会で、ISSの症例検討会を模範に、難解あるいは希有な症例を持ち寄り、午前中に検鏡し、午後は検討会を行っている。BTCの名称は、New Yorkの病理医と放射線科医の大家らによる症例検討会を“New York Bone Club”と称していることに因んだものであるが、長老の牛島宥先生から「クラブだと飲み屋の会合と誤解され、旅費が支給されないかもしれない」と指摘され、正式には“日本骨軟部腫瘍病理研究会”となる。当番世話人を決めて、年に2回全国各地で開催し、45回目(2011年5月)は帝京大学で今村先生が世話をされた。また、Kyung Hee大学Dr. Yangの尽力で、日本と韓国の合同カンファレンスを2年毎に交互に行い、1995年にSeoulで第1回(兼・第15回BTC)が開催された。他の臓器も同様であるが、韓国の参加者には診断力、英語力の高い人も多く、我々日本人にとっても刺激となり、良い効果をもたらしている。第9回日韓合同カンファレンス(兼・第46回BTC)は今秋に韓国のDaeguで開催の予定である。

ISSやBTCをはじめ多くの骨軟部腫瘍の症例検討会では、専門家および興味を持つ病理医、整形外科医、放射線科医などが和気あいあいとした雰囲気の中で、熱く激しい討論を興している。今年9月に第38回となるISSが20年ぶりにSan Diegoで開催される。同じホテルで、周囲の景観、会場の雰囲気もほとんど変わらないと思うが、参加者の顔触れがこの20年で世代交代が進み、自分にとっては感慨深いものになることが予想される。これもまた楽しみである。

文献

  1. 1. Kricum, M.E.: International Skeletal Society Membership Book, 2nd Ed., Springer, Berlin, 1998
  2. 2. 立石 昭夫:日本整形外科学会・第1回~第3回骨腫瘍研究会・第4回~第21回骨軟部腫瘍研究会・第22回~第24回骨軟部腫瘍学術集会演題集, 1991
  3. 3. 恒吉 正澄:日本骨軟部腫瘍病理研究会. 東海病理医会・200回記念誌(黒田誠・編), 2006, p41

「病理と臨床」vol.29 No.7より