細胞診のあゆみ 骨軟部腫瘍の細胞診
1953年にStoutのTumors of the Soft Tissueが米国のAFIPより出版されて以来軟部腫瘍という言葉が普通に使われるようになった。その後この分野の臨床病理学は外科病理(診断病理学)の進歩とともに発展してきた。ほぼその後50数年で、電顕的観察法、組織培養、酵素組織細胞化学、フローサイトメトリー、免疫組織細胞学的手法などの技術の進歩により、細胞の分化を捉えることが可能になった。組織発生や母組織との関連性については依然として不明なことが多く、実際上では基本的に分化像を捉えることにより診断する。
骨軟部腫瘍は組織学的に像が多彩で細胞診、組織診断で難渋することが多い。さらに特に軟部腫瘍では、新たな腫瘍の報告、分類の再検討が相次いでおり煩雑である。新たな腫瘍については、その多くは腫瘍分化の解明による腫瘍概念の変更によるものと思われる。以前はhemangiopericytomaとされていたものの多くがsolitary fibrous tumorとされている。またsynovial sarcomaは滑膜由来とされていたが類上皮肉腫、蜂巣性軟部肉腫などとともにその起源は依然として不明である。
骨軟部腫瘍細胞診の初期では、手術材料での検討であり類円形細胞腫瘍、紡錘形細胞腫瘍、多形細胞肉腫、myxoid tumorや良性悪性の推定などにとどまった。穿刺細胞診が術前診断法としての確立には程遠い状況であった。現在、穿刺細胞診による骨軟部腫瘍診断が精力的に実践されているのは東京有明の癌研究所、日本医科大学など数施設に限られている。pinpointの診断精度が高い。これらのグループは学会の指導的役割をなし、日本のみならずアジアでの軟部骨腫瘍細胞診の普及発展に大いに貢献されている。しかし全国レベルでは、術前診断としての穿刺細胞診の確立に至らず、臨床医より十分な信頼を得ているとは言い難い。骨軟部細胞診の診断精度の向上には、細胞検査上、病理医、整形外科医、放射線診断医の相互の情報交換と、また若手の育成が必要である。
学術的分野では、学会、学術誌で骨軟部腫瘍の報告が毎年増加している。この多くのものは症例報告であるが、詳細、多角的に検討され素晴らしい内容である。残念ながら系統的、総括的、多数例での報告は少ない。これには一施設での軟部腫瘍の頻度が低い、その分野の細胞検査士、病理医の絶対数が少ないためである。tailor-madeの治療、それに対応する術前細胞診断、組織診断が要求される時代になりつつある。主観的、形態的診断を裏付ける客観的方法論が必須である。最近では限られた検体での診断精度向上を目的として、軟部腫瘍の穿刺細胞診検体を用いた世界レベルの分子生物学的研究が帝京大学、群馬大学などより報告され、とても喜ばしい。
2012年6月1日発行の「日本臨床細胞学会50年史」から